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世界初、高効率なトップエミッション型深紫外LEDの開発に成功

〜低コスト化と高い電力変換効率(WPE)を同時に達成可能な次世代の深紫外LEDを実現〜
2026年10月22日

国立研究開発法人情報通信研究機構

ポイント

  • 独自の光取出し構造技術により、世界で初めて高効率なトップエミッション型深紫外LEDの開発に成功
  • 従来のフリップチップ型深紫外LEDと比較し、約35%高い電力変換効率(WPE)を達成
  • 製造工程の大幅な簡略化によるコスト低減と高効率化を同時に達成可能な次世代型深紫外LEDを実現
国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT(エヌアイシーティー)、理事長: 大野 英男)未来ICT研究所の井上 振一郎 室長らの研究グループは、世界で初めて高効率なトップエミッション型深紫外LEDの開発に成功しました。現在実用化されている深紫外LEDは、すべて基板側から光を取り出す「フリップチップ型(ボトムエミッション構造)」を採用しており、その製造コストや光利用効率に課題がありました。本研究では、マイクロリング電極構造とナノ光取出し構造を組み合わせた独自の素子構造を開発することで、チップ上面から直接的に深紫外光を高効率に取り出すことに成功しました。その結果、深紫外LEDの製造工程を大幅に簡略化でき、さらに、従来のフリップチップ型構造と比較して約35%高い電力変換効率(WPE)を実現しました。
本成果は、低コストで高性能な次世代の深紫外LEDの実用化につながるもので、殺菌や医療、食品衛生、半導体製造、情報通信など、幅広い応用分野への社会普及を加速させる技術として期待されます。
なお、本成果は、American Chemical Society(アメリカ化学会)発行の学術論文誌ACS Photonics(電子版: 米国東部時間2026年10月21日(水))に掲載され、Supplementary Coverに選出されました。

背景

図1 今回開発した“トップエミッション型”
深紫外LEDの模式図
深紫外LEDは、空気や水の殺菌・浄化、食品衛生、医療分野、半導体製造、情報通信など、幅広い用途への応用が期待されている次世代の半導体光源です。特に近年は、水銀ランプに代わる環境負荷の低い小型固体光源として、その重要性が高まっています。
現在実用化されている深紫外LEDは、すべて「フリップチップ型(ボトムエミッション構造)」が採用されています(詳細は補足資料図2参照)。この構造では、発光層で生成された深紫外光を基板裏面側から取り出すため、LEDチップを上下反転(フリップ)し、配線・支持基板(サブマウント)へ精密な位置合わせを行い、半田/バンプ接合する工程(フリップチップ工程)が必要となります。そのため製造プロセスが複雑になり、コスト増加の要因となっていました。また、深紫外LEDのAlGaN半導体層とサファイア基板界面における屈折率差により、光の一部が素子内部に閉じ込められてしまうため、光取出し効率にも課題がありました。
これらの課題を解決する方法として、光をチップ上面から直接取り出す「トップエミッション構造」が期待されてきました。トップエミッション構造では、フリップチップ工程が不要になるため、製造工程の大幅な簡略化とコスト低減が可能になります。また、基板を介さずに光をチップ上面から取り出せることから、光利用効率の向上も期待されます(図1参照)。
しかし、深紫外波長領域において、透明な電極材料は存在せず、深紫外LEDでは、電流を注入するために必要なp型電極やp型半導体コンタクト層が深紫外光を強く吸収するため、チップ上面から効率よく光を取り出すことは、これまで極めて困難でした。このため、高効率なトップエミッション型深紫外LEDはこれまで実現されておらず、長年にわたり世界的に重要な研究開発課題の一つとなっていました。

今回の成果

今回、当研究グループは、独自の光取出し構造技術により、世界で初めて高効率なトップエミッション型深紫外LEDの開発に成功しました(補足資料 図2参照)。p型電極及びp型半導体コンタクト層を、同心円状のマイクロリング構造に微細加工することにより、チップ上面における深紫外光の吸収を抑制しながら、高い電流注入効率を実現しました。さらに、その電極開口部に酸化ハフニウム(HfO2)からなるナノ光取出し構造を形成することで全反射を抑制し(補足資料 図3参照)、チップ上面から直接的に光を外部へ取り出せる角度範囲を拡大することにより、高い光取出し効率を実現しました。
その結果、発光波長275 nmにおいて、電気効率(Electrical Efficiency)85%、外部量子効率(EQE: External Quantum Efficiency)7.5%、電力変換効率(WPE: Wall-Plug Efficiency)6.5%のトップエミッション型深紫外LEDを実証し(補足資料 図4(a)、(b)参照)、高い電気特性と高効率発光の両立を実現しました。
また比較用として、従来のフリップチップ型深紫外LEDを同一のエピウェハ・電極メサ構造を用いて作製し、同様の評価を行いました。その結果、今回開発したトップエミッション型深紫外LEDは、従来のフリップチップ型と同様の良好な電気特性を維持しながら(補足資料 図5参照)、高い光取出し効率の実現により、従来のフリップチップ型深紫外LEDに比べ、大幅に光出力が向上し(補足資料 図6参照)、約35%高い電力変換効率(WPE)を示しました。
今回の成果は、深紫外LEDの製造工程を大幅に簡略化でき、さらに、従来のフリップチップ型構造と比較して高効率なトップエミッション型深紫外LEDを世界で初めて実現したものであり、これまでトレードオフの関係にあった「低コスト化」と「高効率化」を同時に達成可能な次世代深紫外LEDへの道を切り拓く成果です。

今後の展望

今回の成果は、殺菌・浄化、医療、食品衛生、半導体製造、情報通信など幅広い分野における深紫外LEDの社会普及を加速させる画期的な技術になると期待されます。今後、NICTは、今回実証した成果をはじめとする深紫外光デバイス技術のさらなる研究開発と社会実装に向けた取組を推進し、安心・安全で持続可能な社会の実現に貢献していきます。

論文情報

著者: Guo-Dong Hao, Manabu Taniguchi, Lingjie Wei, and Shin-ichiro Inoue
論文名: High-Efficiency Top-Emitting AlGaN-Based Deep-Ultraviolet Light-Emitting Diodes
掲載誌: ACS Photonics
DOI: 10.1021/acsphotonics.6c00589

関連する過去の報道発表

補足資料

今回開発した高効率なトップエミッション型深紫外LED

図2 (a) 従来のフリップチップ型深紫外LED 及び (b) 今回開発したトップエミッション型深紫外LEDの模式図
従来のフリップチップ型深紫外LEDでは、素子内部で発光した深紫外光を基板側から取り出すため、LEDチップを上下反転し、配線・支持基板(サブマウント)へ半田/バンプ接合するフリップチップ工程が必要となり、製造プロセスの複雑化やコスト増加の要因となっていました。また、半導体層と基板界面で発生する全反射によって光の一部が素子内部に閉じ込められるため、光取出し効率にも課題がありました。一方、今回開発したトップエミッション型深紫外LEDでは、独自のマイクロリング電極構造とナノ光取出し構造によって、チップ上面から直接・高効率に光を取り出すことを可能とし、低コスト化と高効率化を同時に実現することが可能となります。
図3 (a) 今回開発したトップエミッション型深紫外LEDの模式図、
(b) HfO2ナノ光取出し構造部を拡大して撮影した走査型電子顕微鏡(SEM)写真 鳥瞰像 及び (c) 断面像
今回開発したトップエミッション型深紫外LEDでは、マイクロリング電極構造により電流注入に必要な電気特性を維持しながら、電極開口部に形成したHfO2ナノ光取出し構造により全反射を抑制し、光が外部へ放射される角度範囲(ライトエスケープコーン)を拡大することで、光取出し効率を向上させています。
図4 (a) 今回開発した高効率なトップエミッション型深紫外LEDの注入電流に対する外部量子効率(EQE) 及び
(b) 電力変換効率(WPE)
今回開発したトップエミッション型深紫外LEDは、発光波長275 nmにおいて最大EQE 7.5%、最大WPE 6.5%を達成しました。これにより、高い電気特性と高効率発光を両立した世界初のトップエミッション型深紫外LEDを実証しました。
図5 今回開発したトップエミッション型深紫外LEDと従来のフリップチップ型深紫外LEDの
電流電圧特性の比較
図6 今回開発したトップエミッション型深紫外LEDと従来のフリップチップ型深紫外LEDの
注入電流に対する光出力の比較
今回開発したトップエミッション型深紫外LEDは、従来のフリップチップ型深紫外LEDと同等の良好な電気特性を維持しながら、独自の光取出し構造によって光出力を大幅に向上させることに成功しました。その結果、従来構造に比べて約35%高い電力変換効率(WPE)を実現しており、製造工程の簡略化による低コスト化と高効率化を同時に達成可能な次世代の深紫外LEDであることを実証しました。

用語解説

トップエミッション型深紫外LED LEDチップの上面から光を取り出す構造の深紫外LED。現在実用化されている深紫外LEDの主流であるフリップチップ型(ボトムエミッション構造)が基板側から光を取り出すのに対し、トップエミッション構造ではチップ上面から直接的に光を取り出すことができる。このため、製造工程の簡略化による低コスト化や光取出し効率の向上が期待できる。 元の記事へ

深紫外LED 深紫外(Deep Ultraviolet: DUV)波長領域の光を発する半導体発光ダイオード(LED: light emitting diode)。
紫外線の中でも特にUV-Cとして分類される波長280 nm未満の深紫外光を発する深紫外LEDは、殺菌、水や空気の浄化、医療機器、通信・センシング応用など、様々な分野で新たな市場創出が期待されている。
波長280 nm未満の深紫外光は、オゾン層ですべて吸収されるため、280 nm未満の太陽光は地表には降り注がず、ソーラーブラインド領域とも呼ばれる。そのため、太陽光のバックグラウンドノイズの影響を受けない光信号の送受信が可能となる。
また、例えば生物のDNAやRNAは自然界には存在しない280 nm未満の光に対して強い吸収構造を持つ。この特性により、例えば深紫外光を使えば、塩素などの薬剤を用いずに、細菌やウイルスなどを効果的に殺菌・不活性化できる。
従来、深紫外波長領域の光源としては、主に水銀ランプが用いられてきた。しかし、水銀ランプは、人の健康や環境に有害な水銀を含み、2017年発効の「水銀に関する水俣条約」により、その廃絶に向けた国際的な取組が加速している。深紫外LEDは、低環境負荷であるだけでなく、コンパクトで低電圧駆動、長寿命といった特性をもち、水銀ランプに代わる次世代の光源として高い注目を集めている。
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フリップチップ型(ボトムエミッション構造) LEDチップを上下反転(フリップ)して支持基板(サブマウント)に接合し、発光した光を基板側から取り出す構造。現在実用化されている深紫外LEDの標準的な構造である。一方で、チップ転写や接合などの工程が必要となるため製造プロセスが複雑であり、また光が半導体層や基板内部に閉じ込められやすいことから、製造コストや光取出し効率の面で課題がある。 元の記事へ

ナノ光取出し構造 光の波長(数百ナノメートルオーダー)以下の微細構造を駆使することにより、発光素子の内部に閉じ込められた光を効率的に外部へ取り出す技術。ナノメートル(nm)とは、10億分の1メートルを表す単位。今回開発した深紫外LEDでは、チップ上面の電極開口部に酸化ハフニウム(HfO2)からなる波長スケールのナノフォトニック構造を形成することで全反射を抑制し、チップ上面から直接的に光を外部へ取り出せる角度範囲を拡大することにより、高い光取出し効率を実現した。 元の記事へ

電力変換効率(WPE: Wall-Plug Efficiency) LEDに供給した電力(電流×電圧)に対する、外部に取り出される光出力の割合。電気エネルギーから光エネルギーへの変換効率を示す指標。 元の記事へ

AlGaN(窒化アルミニウムガリウム) 窒化アルミニウム(AlN)と窒化ガリウム(GaN)の混晶材料。直接遷移型の窒化物半導体であり、AlNとGaNの混晶組成比を変えることで、その発光波長を深紫外領域のほぼ全域(210〜365 nm)で任意に制御することが可能である。
深紫外LEDを実現する上で、現在のところ最も適した材料であると考えられており、主にMOCVD法(有機金属気相成長法: Metal organic chemical vapor deposition)と呼ばれる結晶成長方法により製膜される。
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光取出し効率 半導体内の活性層で発光した光のうちでLED外部へ有効に取り出された光の割合。現在、AlGaN(窒化アルミニウムガリウム)系深紫外LEDの高効率化・高出力化を阻んでいる要因の一つが、極めて低い光取出し効率の問題である。 元の記事へ

本件に関する問合せ先

未来ICT研究所 神戸フロンティア研究センター
深紫外光ICT研究室

井上 振一郎

広報(取材受付)

広報部 報道室